楊 亭 亭
(YANG, TING TING)
第26期在日留学生
早稲田大学
国際教養学部教養学科卒 (中華民国)
今年の1月に、早稲田大学のボランティアセンターを通して、今回の大地震に伴った津波に流された、汚れた写真を洗浄するというボランティアをしました。
大変な作業ではなかったが、写真の中で微笑みを見せている人は、今どこにいて、どうなっているのだろうかと思うと気持ちが複雑になりました。その中に新生 児、成長記録、ひな祭り、成人式、留学などの写真があって、いずれもアルバムの持ち主にとっては、貴重な宝物です。写真を洗うということによって、被災し た人たちの生活を実質的に改善できないかもしれないが、汚れた写真をきれいにして返したら、被災した人たちの大きな心の支えになると思いました。
日本と同じく、環太平洋火山帯に位置している私の国、台湾もよく地震が起きます。十何年前にも多くの人々の命を奪った大地震がありました。
しかしその時、流された写真やアルバムを集めて、きれいに洗って、被災した人たちへ返すというプロジェクトはなかったような気がします。
お金を寄付したり、被災地に行って瓦礫を撤去したり、清掃をしたりする人はたくさんいるのに、写真の洗浄のようなプロジェクトはまったくなかったのです。
なぜだろうと考えてみて、私はこう思いました。ものの実用性に着目する台湾人と違って、日本人は実用さだけではなく、抽象的な価値、例えば精神面や美などをも重視しています。
これは日本文化を見れば分かります。例えば、日本の茶道は台湾の茶芸と違って、美味しいお茶を飲むだけではなく、礼儀や作法も重視されています。空手もそうです。私に空手を教える先生はどう技を効かせるかということばかりではなく、武術の精神も強調しています。
ですから、日本人には写真の洗浄などのプロジェクトを通して、被災した人の心を支えるということが大事だと考えているのだと思われます。
その一方、台湾では写真の洗浄のようなことは被災者の生活の実質的な助けにならないからでしょうか、やってあげようと思う人がいなかったと思います。
もちろん、ものごとの実用性を重んじるのは、決して悪いことではありません。しかし、あるものをもっぱら強調すると、ほかのことが見えなくなってしまいます。これからは、ほかのこと、特に精神的な面も大事だと、台湾の人々に伝えていきたいと思っています。
機関誌「ふれあい」 №77号 春季号 (2012.4.25発行)